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浦和地方裁判所 昭和50年(ワ)119号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

<証拠>によると、次のとおり認められる。

(一) 本件カッターはコンクリート、アスファルト等の硬物を切断、切削する小形のいわゆるコンクリートカッターで、その構造は、それぞれ独立したゴム製ダブルタイヤ計四輪の上に、カッター本体であるブレードのほか、これを可動する空冷ガソリン機関、これを冷却する注水タンク等を備えた鋳鉄製フレームが懸架(フレームの総体は長さ八〇cm、幅四五cm、高さ九〇cm、総重量一〇〇ないし一一〇kg)されたものであつて、フレームの前部右側下方に取り付けられた直径三〇cmのダイヤモンド製ブレードが、モーター(使用燃料はガソリン)により高速度で回転(一分間最高三二〇〇回)して物を切断、切削し(切削等深度は、最大一〇cmであるが、〇ないし一〇cmの間で適宜調整(レバー方式)できる。)、この間注水タンクからの注水によつてブレードを冷却しつつ使用する仕組であり、操者は右フレームの手前にある管状の枠に依り、またこれを手押して走行移動する方式のものであつた。そして、右冷却水と切断片、切削片等の拡散を防止すべく、円形ブレードの上半分は金属性ブレードカバーで覆われ、さらにブレードの斜め後方で右ブレードカバーの末端に接着して水よけカバー(長さ11.5cm、幅4.5〜10cm、厚さ0.3cm)が一枚取り付けられていたが、これは、切削深度に応じてその弾性によつて上下しうるためと飛散する右切断片に対して緩衝的効果を兼ねて、ゴム製であつた。なお、右切削等深度と切断片等の拡散範囲との相関関係は、概ね深度有意値から深度五cm程度までについては、拡散範囲は仰角二〇数度程度(深度一〇cmの場合は、仰角約四五度に達する。)で、この事実と前記水よけカバーの幅からすると、操作者において著しく身体を前傾、屈折し、またはその顔面部を極度に突出させる等の不自然な体位をとらないかぎり、前記飛散する切断片等の侵襲を免れる構造であつた。

(二) 本件カッターは、被告板橋機械が製造した機械で、被告小松物産に売却され、昭和四七年一〇月一〇日頃、有限会社三角特殊興業が、被告小松物産から代金一七万五〇〇〇円で、これを買い受け、同月一六日に引渡を受けた。右引渡の前日には、本件カッターの試運転がなされたが、何らの異常はなく、また、右試運転の際には、ダイヤモンド製グレードのみ中古品が用いられていたが、翌日には右ブレードも新品と交換された。

(三) 原告は、父親三角一雄が代表者である有限会社三角特殊興業において、コンクリートの穴あけ等の作業に従事していたが、昭和四七年一〇月一七日、一雄より本件カッターの使用方法を教えてもらい、また、前記(二)の試運転にも立ち会つて、右カッターの操作を修得した。

そして、同月一八日、原告は、東京都足立区花畑町一八〇番地において、本件カッターを始動させて、道路面(アスファルト)の切断作業にとりかかり、路面下約五cmの深度で切断していたところ、突然、右カッターのダイヤモンド製ブレードが折損し、たて、横各六mm、長さ1.5cmくらいの右ブレードの破片の一つが、原告の右眼に命中した。そのため、原告は右眼球破裂及び眼窩骨壁亀裂骨折の傷害を負つた。

以上のとおり認められ<る。>

三 そこで、本件カッターにつき、原告主張のような瑕疵があつたか否かにつき検討する。

(一) <証拠>によれば、本件事故後、本件カッターの水よけゴムを調べたところ、これに小さな穴があいていたことが認められ、また前記二(二)、(三)に認定したとおり、本件カッターが作業に使用されたのは、本件事故の際が最初であつて、それ以前に、右の穴はあいていたとは考えにくいから、これは、原告の右眼に入つたチップが、貫通してできた穴であると一応推知できないではないが、他方<証拠>によると、原告は、本件事故当時、本件カッターの後方(換言すると手前)に立ち、上方をやや前傾させた姿勢で作業していたもので、その際、身体を著しくかがめ、若しくは、顔を前方に突き出すなどしなかつたものと推認せざるを得ず(この推認定を左右するに足りる証拠はないので)、また、本件事故後、作業個所より後方一m位のところに、本件カッターの切断片がもう一個落ちていたことが認められるが、しかし、<証拠>によれば、仮に、本件カッターのブレード破片が、右水よけカバーを貫通したものとすると、右破片は、原告の眼の位置(前記推認される体位または普通の姿勢からする)に比較して相当低い方向にしか飛ばないことも明らかである。そうすると、原告の右眼に命中した切断片が、水よけカバーを貫通したものであるとの確証を当裁判所は形成することができない。(形成しうる心証の一端を示すに、切断片がゴム製水よけカバーを貫通して原告の右眼に入つた可能性はあるものの、この可能的事態における原告の体位ないし姿勢は、その顔面をブレードに著しく近づける等の不自然な状況を推認せざるを得ず、また仮に切断片が右カバーを貫通していないとすれば、その際の原告の姿勢等は著しく不自然なそれであるか、もしくは切断片が何物かに衝突してはね返る等、通常予測困難な稀有の事態を推定せざるを得ない。)

したがつて、原告の前記主張は、その前提となる事実(安全性上の瑕疵等)を本件全証拠をもつてしても認めることができない。

(二) なお付言するに、仮に、原告主張のような安全カバーを本件カッターに取り付けることが機械の構造並びに機能の面から可能であつたとしても、本件において、被告板橋機械に右取りつけをなすべき義務があるというためには、右カッターのブレード自体が折損しやすいか若しくは作業中小石などが飛散しやすいかして、作業者の身体に危険を及ぼしうることにつき主張・立証を要するものというべきところ、原告は、右の点についてこれを首肯するに足る立証をしない。

(三) そうすると、本件カッターに瑕疵があるとの原告の主張は理由なきに帰する。

(薦田茂正 小松一雄 小林敬子)

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